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ドングリの戦略

知床で今年大豊作のドングリが生き残るための戦略。前回は、ドングリの敵が少なくなったところに数で一気に攻めるという、全滅を防ぐ生き残り戦略を紹介しました。今回は化学的な戦略を紹介しようと思います。

ドングリは、いつも見ていて思うのですが、おいしそうです。ピーナッツやアーモンドのように食べられたらなぁ…と食べたい衝動に駆られるのですが、渋くてとても食べられたもんじゃないです。そう、これがドングリの化学的戦略、渋み成分タンニンなのです。タンニンはただ渋いだけでなく、多量に摂取すれば消化障害を引き起こし、潰瘍や肝機能障害を発生させるなど、内臓にダメージを与える有毒成分なのです。

ミズナラのドングリはタンニンの含有量が多く、動物たちにとってお手軽な食べ物ではありません。タンニンに対する特別な体質でなければ食べることはできないのです。しかもその体質になるには、ドングリをよく食べるネズミにとっても容易ではないようです。

ドングリを食べることが知られているアカネズミについては研究例があるので、簡単に説明します。実験では、アカネズミにミズナラのドングリだけ与えて飼育すると10日以内に大半が死亡します。しかし、餌に少しずつタンニンを混ぜてタンニンに馴らした後にドングリだけ与えて飼育すると、ほとんどが死亡せずに健康な状態を維持します。これには、ネズミの唾液に含まれるタンニン結合性唾液タンパク質と、腸内にいる乳酸菌の一種である、タンナーゼ産生腸内細菌の活性の度合いの2要素が関与しているそうです。

このような体質があってはじめてアカネズミはドングリを食べることができるのです。知床では今年、ヒグマがミズナラのドングリをたくさん食べていることが確認されていますが、もしかしたらヒグマも、最初はドングリを少しずつしか食べられないのかもしれません。

ドングリはこうやって、少しでも生き残ろうと必死なのです。

 

(担当:新庄)

ドングリの中身を砕き水に漬けておいたら、タンニンが溶け出てきた。

ドングリの中身を砕き水に漬けておいたら、タンニンが溶け出てきた。